2015年10月21日水曜日

歴史で学ぶドイツ語・第3回「戦後を読む・聴く・回顧する」

戦後を読む・聴く・回顧する

 右と言えば左というのではありませんが、本などもどちらかといえば古本を好むほうで、神保町を昼食を食べ忘れたまま見て回ったこともあります(実話)。大学の図書館でも、経年劣化した岩波文庫の肌触りが心地よいものです(って書いても理解してくれそうな人はいなさそうですが・・・)。まあ暇のある時に色々専門分野とは関係ないコーナーを見て回るのも一興ですよ。
 さて今回はそんな古い本からドイツ語を学んでみましょう。Diese Bücher werden womöglich nicht „Makulatur!“


 „Stimmen der Zeit“に興味を持たれた方におすすめしたいのが『ドイツ現代史を演説で読む』です。背表紙に「テープ」(「カセット」だったかもしれません。ちなみに写真は個人所有のものです)のラベルが貼ってあり、以前韓国語をわざわざカセットテープ付きの古本で独学したのを思い出しました。あの独特のイントネーションは、と、話があさっての方向にそれていきそうなので軌道修正します。本を開いてまず目を引くのが、46年3月のKonrad Adenauerによる演説です。中でも„weil paralel laufende, gleichgeschaltete wirtschaftliche Interessen das gesundeste und dauerhafteste Fundament für gute politische Beziehungen zwischen den Völkern sind und immer bleiben werden.“というくだりは、Johan Galtung氏の提唱する真の「積極的平和主義」(2015年8月26日付の朝日新聞朝刊で読みました)を連想させます。つまり複数の国による共同体が、一番の抑止力となるのです。書き忘れていましたが、テープに録音されているのはWeizsäcker大統領の「敗戦40周年記念演説」と「ドイツ統一記念演説」(今年の10月3日で統一25周年を迎えますね)のみです。その他は一部、Itunesなどでダウンロードできるものもあり、またスクリプトはDer Bundespräsident(„Die Bundespräsidenten“にカーソルを合わせると歴代大統領の名前が表示されます)で読むことができます。統一記念演説だけはインターネット上で視聴することができなかったので、関心のある方はカセットとともにどうぞ(余談ですが、貸し出す際に職員の方から「カセットでよろしいですか」と聞かれてしまいました・・・)。テープからMDに、さてそこから今世紀の携帯プレーヤーなどに転送する機器を持っていなかったので、CDも購入してみました。

Auf Amazon.de gekauft

 こちらにはBRD設立40周年記念演説も収録されています(そのかわり統一記念のものはありません)。もちろん有名すぎる、ドイツ語に関わることのない人にも知られているほうの演説はネット動画で視聴することもできます。しかしこのようにパッケージ化されたもので聴くのも、それはそれで一興です。昔はVinyl(レコード)で聴いていたという話をなにかのブログで読んだことがありますが、う~ん、聴けはしないものの、お店みたいに飾っておきたいものです。

 戦後、ドイツと日本は平和と発展の道を模索してまいりました(いきなり演説調)。戦勝祝賀式はたしかに戦勝国のためのものかもしれません。そして謝罪は敗戦国のために用意された義務でもあるのでしょう。ただしここに一つの事実があります。敗れたからこそ将来にわたって戦争をしないという誓いができたのです。もし勝利していたら、日本は戦争のできる国であり続けていたでしょう。これからの課題は、どうしたら米国のUntertan(臣下)という状況を抜け出し、自立した、責任ある行動をとれるかということにあると私は思います。米国がこうこうするから日本もそうする、というのでは、ある意味国民にとってお上の上にさらにお上がいるようなものです。

Die Tage mit Vater(『父と暮らせば』)

 素人写真が最初と最後に二枚載りましたが、ネットオークションの出品写真ではありません。冗談はともかく、すっかり長くなって紙数がつきてきてしまいました。最後は故・井上ひさし氏による『父と暮せば』を手短に紹介しましょう。ドイツ語版は是非、ドイツ語劇サークルPanoptikumのみなさんに上演していただきたいものです(登場人物は二人だけなのですが)。物語は、原爆を奇跡的に生きのびた女性が、自分一人だけ生きているのは申し訳ないという気持ちと、一方では生きたいという気持ちの間を揺れる様を描いています。作者は、一人二役は厳しいだろうと思い、生きたいという気持ちを代表する者として父親を登場させたと書いています。この作品はドイツ語のみならず、英語、イタリア語、ロシア語などにも翻訳され、各国で上演されてきました(出版から年数が経っているので、更に国境を越えていると思われます)。朗読劇という形で、ここ獨協で上演するのもいいかもしれません。この本はアメリカの古本屋をとおしてドイツの古本屋から取り寄せたものですが、奥付を見ると、日本国内で出版されたもののようです。逆輸入です。なお、本は左にドイツ語、右に日本語という語学本のような体裁になっています。

では次回をお楽しみに。Wiedersehen!

Yuki Watanabe

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