2015年11月11日水曜日

歴史で学ぶドイツ語・第4回「歴史に埋もれてほしくない言語」

 Internetseite, googlen, einloggen, facebooken oder twittern…今やコンピューター用語で英語由来のものを見かけない日はないと言っていいくらいの勢いです。ドイツ統一(1871年の統一です)あたりでしたでしょうか、押し寄せる外来語に対して言語浄化運動が政治的に利用されたことがありましたが、現在Anglizismenを避けているのは少数派なのでしょう。では少数民族の言語は、今や顧みる必要のない段階に来ているのでしょうか?100、200年後には日本語が消滅しつつある言語になっていると仮定して、さて現在消えつつある言語のことを考えると、なにか文化の貧困のようなものを感じます。
 Die Welt in Weiß und Schwarz? Nein, danke.

 とはいえ、世界共通語としての英語を否定しているわけではありません。明日アルメニアに行けと言われたら、やはり英語に頼ることになるでしょうし、戦地を取材するジャーナリストにとっても、グローバルな言語を話せる通訳の存在は貴重でありましょう。そしてビジネスの世界において欠かせないツールであることは言を俟ちません。言うは易し、かもしれませんが、問題に対する答えはシンプルなものです。つまり、共生していけばいいのです。今回はそこで、ドイツにおける少数言語、ソルブ語をとりあげてみましょう。

 『事典 世界のことば141』によれば、ザクセン州のほうでは上ソルブ語(Obersorbisch、話者数は約15000-20000人)、ブランデンブルク州のあたりでは下ソルブ語(Niedersorbisch、話者数は5000人以下)が使用されています。但しあとで触れるソルブ語の教材では、前者が約40000人、後者がおよそ15000人とされています(教材の奥付では2012年出版となっており、事典が出てから3年経過しています)。使用されているといっても、皆ドイツ語とのバイリンガルです。こうした状況を見ると、アイヌ語と日本語の共生は危機的と言わなければならないのかもしれません。アイヌ語で思い出しましたが、北海道の地名でラ行が冒頭に来るものはアイヌ語に由来している、となにかの本で読んだかラジオで耳にしたことがあります。実はドイツにも同じようなケースが見てとれます。„Obersorbisch im Selbststudium“(von Jana Šołćina, Edward Wornar. Bautzen, Domowina-Verlag, 2012)のEinleitung(S.8)からそのあたりを引用してみましょう。

„Im frühen Mittelalter reichte das slawische Siedlungsgebiet bis zur Ostsee im Norden und bis zum Main im Süden. Belege für die ehemals slawische Besiedlung sind z.B. Ortsnamen wie Rostock(slawisch roz−tok− ‚Auseinanderfließen‛)oder Leipzig(slawisch lipsk−‚ abgeleitet von lipa ‚die Linde‛). 

 しかしソルブ語は殊に第二次世界大戦後、die Lausitzの工業化、集団農場(コルホーズ?)、非ソルブ人の移住などによって一時は衰退の憂き目を見ました。その一方で、DDRの時代にはソルブ語によるラジオ番組も放送されていました。Obersorbisch、Niedersorbischどちらの放送なのかは分りませんが、bpb(連邦政治教育センター)にある„Regionales Hörfunkprogramm der DDR: Erziehung zum DDR-Staatsbewusstsein“という記事に詳しく書かれています(Regionale Sprachtraditionen: Sprache als Element zur Identifikationから下)。ただしこれは、SEDの反ファシズム神話形成に役立ったため、という政治的意図も背後にあったようです。ソルブ語はナチスの時代に抑圧されていました。
 現在はどうでしょうか。現在は純粋にソルブ語保護のため、やはり当の言語による放送があります。またrbb(ベルリン・ブランデンブルク放送)はSorbisches Programmという枠を設けており、少数言語・地方言語保護の精神が見てとれます。ソルブ語とドイツ語を併記しているFacebookのページなどもあり、これなどは学習者にとっても、ソルブ人とその文化を知りたい人にとってもうってつけではないでしょうか。その他Language Diversityという非営利団体は少数言語・地方言語保護に積極的で、将来は必ずしもWeiß und Schwarzではないようです。

 「実用性がない」という理由でそれらの言語を避けたくなる気持ちも分らないではありません。外国語学習には時間と労力がいりますし、上ソルブ語などはロシア語に似て(同じスラブ語派なので当然ですが)格変化も複雑です。しかし学ぶ時間はなくても、言語を消滅の危機から救う活動はできます。

 まずは関心を持つことから始めてみませんか?

 na zasowidźenje!/Auf Wiedersehen!

(上ソルブ語はチェコ語に近いそうですが、とりあえずロシア語ではДо свиданияです。なんとなく似てますね)

Yuki Watanabe

http://www.bpb.de/(連邦政治教育センター)
http://www.rbb-online.de/radio/sorbisches_programm/sorbisches_programm.html(ベルリン・ブランデンブルク放送内のソルブ語番組)
http://www.serbja.de/index.html(ソルブ語に関する情報など)
https://www.facebook.com/MDRSerbja(Obersorbisch/Deutsch)
http://language-diversity.eu/(Language Diversity。9か国語対応)
http://www.frpac.or.jp/((公財)アイヌ文化振興・研究推進機構)

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